Article

生成AIで税理士業務はどう変わるか|会計事務所の導入ステップと、個人から組織への広げ方

会計事務所の方と話していると、「ChatGPTは少し触っている」という声が増えました。請求書の内容を相談したり、メールの下書きを頼んだり。便利だと感じている方は多いです。ただ、その先に進めている事務所は、まだ多くありません。一部の人がその都度チャットにお願いするだけで、そこで止まっているケースがほとんどです。

私はクロトレという、Claude Code(クロードコード)の業務活用を支援するサービスを運営しています。会計や税務の専門家ではありません。ただ、自社の月次決算はfreeeとClaude Codeをつないで自分で回していますし、税理士事務所のAI導入のお手伝いもしてきました。その中で見えてきたのは、生成AIで成果を出す事務所と、入れたのに使われない事務所の差は、ツールではなく導入の順番にある、ということです。

この記事では、生成AIで税理士業務がどう変わるのかを整理したうえで、事務所としてどの順番で導入していくかを、個人の効率化から組織全体の仕組みへ広げる流れで説明します。「AIに置き換わるのか」という将来の話ではなく、いま手元で何をどう変えるか、に絞ります。

01 生成AIで税理士業務はどう変わるのか

これまでの会計事務所のAIは、決まった処理を正確にこなす方向で進んできました。領収書の文字を読み取ったり、過去のパターンから勘定科目を推測したりする、識別の得意なAIです。会計ソフトに組み込まれて、すでに広く使われています。

生成AIは、ここに別の力を足します。文章を書く、複数のツールをまたいで作業を進める、人と会話しながら段取りを変える。これまで人の手が残っていた、柔らかい部分を引き受けられるようになりました。ChatGPTが世に出た2022年以降、この種のAIは急速に実務へ入ってきています。

事務所の仕事に当てはめると、変化の方向ははっきりしています。記帳や仕訳のチェック、月次レポートの下書き、確認メールや議事録づくりといった、手間はかかるが手順の決まった作業から、人の時間が空いていきます。その空いた時間を、顧問先への提案や相談という、人にしかできない仕事に回せます。生成AIがもたらすのは、この組み替えです。

BEFORE定型作業に時間を取られ、提案や相談まで手が回らない。
AFTER下書きと点検をAIが引き受け、人は判断と提案に集中する。

02 会計ソフトのAIと生成AIの役割分担

導入で最初につまずきやすいのが、この二つを混同することです。役割が違うので、分けて考えると整理がつきます。

会計ソフトに入っているAIは、領収書を読み取る、自動で仕訳を提案する、といった決まった処理が得意です。ここは無理に生成AIで作り直す必要がありません。すでにある機能に任せます。

生成AIが力を発揮するのは、その手前と先です。たとえば、できあがった仕訳を点検していつもと違う動きを洗い出す、顧問先に送る確認文を書く、試算表からレポートのたたき台を作る。ツールをまたいで、文章にして、一連の流れとして進める仕事です。既存の会計ソフトに任せる領域と、生成AIで新しく組む領域があります。この線を引いてから、どこに手を入れるかを決めます。

その橋渡しをするのが、MCP(エム・シー・ピー)という仕組みです。いろいろな機器を1本の規格でつなぐUSBのように、AIと外部サービスをつなぐ共通の規格だと考えてください。これを通して、生成AIはfreeeやマネーフォワードに直接つながり、仕訳を読んだり試算表を取ってきたりできます。つなぎ方の詳しい手順は「税理士のためのClaude Code活用ガイド」にまとめています。

03 生成AIで変わる業務と、人に残る業務

「事務所のどこから手をつけるか」を決めるには、業務を二つに分けて見るのがいちばんです。

生成AIで変わる業務人に残る業務
証憑からの仕訳の下書き税務上の判断・税務相談
仕訳チェックと、いつもと違う動きの洗い出し顧問先との関係づくり・面談
月次レポート・試算表コメントのたたき台提案内容そのものの決定
確認メール・議事録・提案書の下書き成果物の最終確認と承認
決算前の論点リストの叩き台最終的な責任を負うこと

左の列は、生成AIに下書きや点検を任せられる仕事です。ゼロから手を動かす作業が、できあがった案を確認する作業に変わります。右の列は、AIに任せない仕事です。判断と責任は人が握り続けます。「税理士の仕事そのものがなくなるのか」という不安については、「税理士はAIでなくなる?」で別に整理しています。

この線引きを保つかぎり、生成AIを入れても品質の責任は事務所の側に残ります。記帳から月次レポートまでの具体的な手順は「税理士のAI活用ガイド」で詳しく扱っています。本記事は、それを事務所としてどう広げるか、に進みます。

04 いちばん多いつまずき:個人で使って、そこで止まる

冒頭にも書いたとおり、多くの事務所は「一部の人がチャットで使う」段階で止まっています。これ自体は悪いことではありません。ただ、ここには越えにくい壁があります。

個人がチャットにお願いするやり方は、毎回ゼロから事情を説明することになります。顧問先の前提も、事務所のルールも、AIは覚えていません。だから、使う人によって出てくるものの質が変わり、その人が休むと止まります。便利な道具が、属人化したまま増えていく状態です。

生成AIの本当の効きどころは、ここから先にあります。一人の作業を楽にする段階から、事務所のルールと記憶をAIに持たせて、誰が使っても同じ手順で動く段階へ移ることです。私が支援していて成果が出るのは、この移行をはっきり意識した事務所です。逆に、個人の便利さで満足してしまうと、AIは事務所の資産になりません。

05 事務所の生成AI導入ステップ

個人から組織へ広げるとき、私がおすすめしている順番があります。一気に全部を変えようとすると、たいてい途中で止まります。次の四つを、上から順に進めてください。

STEP1 ルールとセキュリティを決める 学習させない設定・操作範囲・承認工程 STEP2 個人の効率化から始める メールの下書き・要約・調べもの STEP3 事務所の知識を仕組みに変える ルール・手順・顧問先の記憶をAIに持たせる STEP4 会計実務の自動化と提案へ 仕訳チェック・月次補助・顧問先提案 各段階で、最後の承認は人が握る
上から順に進めます。会計実務の自動化は最後です。先に土台を作ると定着します。

STEP1 ルールとセキュリティを最初に決める

最初に手を動かすのは業務ではなく、ルールです。学習に使わせない設定にした法人向けプランを選び、データの扱いを確認します。そのうえで、AIに許可する操作の範囲と、人が必ず承認する工程を決めます。ここを後回しにして業務から入ると、職員ごとにバラバラの使い方が広がり、あとから直すのに苦労します。先に枠を作っておくと、人が増えても同じルールで使えます。

STEP2 個人の効率化から始める

土台ができたら、まずは一人ひとりの作業から入ります。メールの下書き、長い資料の要約、調べもの。顧問先の重要なデータを動かさない範囲で、毎日くりかえす作業を軽くします。ここで職員が「思ったより難しくない」と感じられると、その先が進みます。最初の成功体験を、小さく安全な場所で作るのがコツです。

STEP3 事務所の知識を仕組みに変える

個人で慣れてきたら、事務所のやり方をAIに持たせます。属人化から抜け出せるかどうかは、この段階で決まります。生成AIには、これを支える土台がいくつかあります。難しいものではなく、それぞれファイルを1つ用意するだけです。

事務所のルールブックを1枚作っておくと、AIは毎回、事務所の方針や文章の書き方を思い出して動きます。ベテランの段取りを手順書として覚えさせておけば、よくやる作業を誰がやっても同じ流れで進められます。顧問先ごとのカルテを書きためておけば、経緯や前回の約束をAIが踏まえて対応するので、担当が代わっても引き継ぎが軽くなります。暗黙知が人とともに抜けていく事務所ではなく、知識が資産としてたまる事務所に変わっていきます。ここで生成AIは、単発で手伝う道具から、事務所のやり方を理解したスタッフに近づきます。

STEP4 会計実務の自動化と、顧問先提案への展開

ここまで来て初めて、会計実務に踏み込みます。クラウド会計につないで、仕訳のチェックや月次レポートの補助を任せます。私自身、自社ではfreeeにつないで「先月の仕訳を点検して」と頼むところまで日常的に使っています。すると、いつもと違う動きを洗い出し、顧問先に送る確認文の下書きまで一度に進みます。

先月の仕訳を取得して、点検してください。
- 前月と金額が大きく変わっている科目
- 税区分がいつもと違うもの
- 例年計上されている固定費で、今月見当たらないもの
を挙げてください。
顧問先に確認したほうがよい点は、そのまま送れる確認メールの文面案も添えてください。
登録や送信はせず、私が確認してから行います。

会計実務を最後に置くのは、ここが顧問先の数字に直接触れるからです。土台とルールができていない状態でここから入ると、事故の確率が上がります。逆に、STEP1からの順番を踏んでいれば、いちばん効果の大きい領域に、いちばん安心して手を伸ばせます。

06 「形だけ」では事故が起きる:承認と権限の設計

生成AIを業務に入れるとき、いちばん怖いのは、設計せずに動かすことです。便利だからと操作を全部任せてしまうと、いつか事故が起きます。よく聞くのは、必要なファイルまで消してしまう、本物に紛れた偽のツールを入れてしまう、顧問先の情報が外に出てしまう、といった心配です。

これらは、心がけではなく仕組みで防ぎます。生成AIには、危ない操作の前に人へ確認を求める設定や、できる操作をあらかじめ絞る設定があります。ファイルの削除のような操作は、実行する前に止められます。「気をつけよう」では事故は止まりません。止まる仕組みを先に入れておきます。

そして、すべての工程で守るのが、AIは下書きと提案まで、人が承認してから確定する、という線です。会計ソフトへの登録も、顧問先へのメール送信も、最後は人が押します。この一線を崩さなければ、生成AIに任せる範囲を広げても、品質と責任は事務所の手に残ります。

07 非エンジニアの職員でも回せる進め方

ここまで読んで、技術に明るい職員がいないと無理ではないか、と感じた方もいるかもしれません。実際には、黒い画面にコマンドを打つような操作は必要ありません。Claude Codeはデスクトップアプリで使えて、日本語で指示するだけです。

必要なのは、最初に一度だけ整える準備です。クラウド会計とのつなぎ込みと、STEP1で決めたルールを、最初にまとめて設定します。難しい設定は、得意な人か外の支援を借りて固め、日々の運用は職員が会話で回します。この分担にすると、無理なく定着します。

気をつけたいのは、セキュリティは一度設定すれば終わり、ではないことです。これだけ設定すれば安全という万能の正解はなく、日々の小さな判断の積み重ねで守っていきます。AIに渡す権限は必要な分だけにする、「実行していいですか」と聞かれて中身が分からないときは安易にYesを押さない、外部への送信やお金のかかる操作には上限と確認を入れておく。むしろ職員一人ひとりが「これは危ないかも」と気づける状態のほうが、設定そのものより大事です。この基本を共有しておくと、新しいツールが増えても落ち着いて使えます。

これから始める方は、まず「Claude Codeデスクトップアプリのインストール方法」から確認してみてください。

身につけ方には、二つの面があります。仕組みを知る面と、毎日触って感覚を掴む面です。公式の情報で全体像を押さえつつ、自分の業務で小さく試して、うまくいった指示を貯めていく。この両輪が回り始めると、事務所のなかにAIを使える人が増えていきます。

まとめ:何から始めるか

生成AIで税理士業務が変わるのは、定型作業の部分です。記帳や仕訳チェック、月次レポートや議事録の下書きを引き受け、人は判断と提案に集中できるようになります。一方で、税務の判断、顧問先との関係、最終的な責任は人に残ります。

事務所として広げるときは、順番が大事でした。STEP1でルールとセキュリティを決め、STEP2で個人の効率化から始め、STEP3で事務所の知識を仕組みに変え、STEP4で会計実務の自動化と提案へ進む。会計実務は最後です。土台を先に作っておくと、いちばん効果の大きい領域に安心して手を伸ばせます。

最初の一歩は、欲張らないことです。STEP1のルールを決めて、毎日くりかえす作業を一つだけ選んで、小さく試す。そこからどう広げるかは、事務所ごとの業務や顧問先の事情で変わります。クロトレでは、税理士事務所のこの導入を、最初の設計から運用の定着まで個別に伴走しています。進め方は「税理士向けの Claude 活用」にまとめました。自社の事務所だと何から始められるか、一緒に整理しましょう。

FAQ

よくあるご質問

生成AIで税理士業務はどこまで変わりますか?

変わるのは、記帳や仕訳チェック、月次レポートの下書き、議事録や提案書づくりといった、手間はかかるが手順が決まっている作業です。一方で、税務上の判断、顧問先との関係づくり、最終的な責任は人に残ります。生成AIは下書きと点検を引き受け、人が確認して承認する。この線引きを保てば、品質の責任は事務所の側に残ります。

事務所はまず何から生成AIを導入すべきですか?

最初に決めるのはツールではなく、ルールとセキュリティです。学習に使わせない設定にした法人向けプランを選び、AIに許す操作の範囲と、人が承認する工程を先に決めます。そのうえで、毎日くりかえす個人の作業(メールの下書き、資料の要約、調べもの)から始めると、リスクを抑えながら効果を実感できます。

顧問先のデータを生成AIに入力しても大丈夫ですか?

クラウド会計を使っている時点で、顧問先のデータはすでにクラウドにあります。生成AIも基本は同じ仕組みです。業務で使うなら、入力した内容を学習に使わない設定にできる法人向けプランを選び、利用規約と設定を確認してください。そのうえでAIに許可する操作を絞り、最終的な登録や送信は人が承認する形にすれば、安全に使えます。

会計ソフトのAIと生成AIは、何が違うのですか?

会計ソフトに入っているAIは、領収書の文字を読み取る、勘定科目を推測するといった、決まった処理を正確にこなすのが得意です。生成AIは、文章を書く、複数のツールをまたいで一連の作業を進める、人と会話しながら段取りを変える、といった柔らかい仕事を引き受けます。どちらが上ではなく、役割が違います。既存の会計ソフトに任せる部分と、生成AIで新しく組む部分を分けて考えると整理がつきます。

生成AIを使うと税理士の仕事はなくなりますか?

業務の一部は自動化されますが、税理士という仕事がなくなる話ではありません。早めに仕組みを整えた事務所が、空いた時間を顧問先への提案や相談に回せるようになる、という変化です。AIに置き換わる業務と人に残る業務の線引きは、本文の「生成AIで変わる業務と、人に残る業務」でも整理しています。

非エンジニアの職員でも生成AIを業務に使えますか?

黒い画面にコマンドを打つような操作は必要ありません。デスクトップアプリを開いて、日本語で指示するだけです。最初のつなぎ込みと、事務所に合わせたルールの設定さえ済ませれば、あとは会話で進められます。難しい操作は、最初に一度だけ整えておけば足ります。

導入を進めるとき、事務所として最初に決めておくべきことは何ですか?

三つあります。学習に使わせないプランとデータの扱い、AIに許可する操作の範囲、人が必ず承認する工程です。この三つを最初に決めておけば、職員が増えても同じルールで使えます。あとから足すより、最初に枠を作っておくほうが、事務所全体で安心して広げられます。

Writer

木村和弘(株式会社アルリーチ 代表)

木村和弘

株式会社アルリーチ 代表

Claude Code/Claude Cowork の活用研修「クロトレ」を運営。経営者・士業・人材紹介会社が、AIで業務を自分で内製・自走できるようにする個別顧問・研修を提供しています。CFO仲介事業の運営を通じて、財務・経営の実務にもAIエージェントを日常的に活用しています。

運営会社・プロフィール

まずは30分の無料相談から。

いま最も時間がかかっている業務を1つ、無料相談で整理します。そのうえで、自社に合う進め方をご提案します。

30分の無料相談を予約する

相談無料・1営業日以内に返信